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Novel pkmn 今日はえいえんの最初の日(シンオウでウォロと再会/完結)
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tt5 !+さよならの練習を(男主とオフェンスが過ごす真夏の話/現パロ/完結)
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最恐最悪の悪役について

探鉱者
「もう一度聞くけど、こんな狭い、何もない荘園で?」

 ノートンがほんの僅かに驚きと過半数以上の怪訝さをを滲ませて尋ねた。誰もいない食堂で音が妙に反射してうわんと響く。ウィリアムは真っ直ぐとノートンを見て頷く。ノートンは持っていた磁石を磨くのをやめて、じっとウィリアムを見る。夜色の瞳は普段何も感情を移さないのに、この瞬間だけは不可解さで出来ていた。それに対してウィリアムの瞳は何時だって星が瞬いている。今回もだ。今回もキラキラと煌めいている。濁ることを知らず、澄み切った光を溢れさせている。

「君は、君自身の恋人に、本気でプロポーズをするの?」

 一語一句噛み締めるようにしてノートンはウィリアムに確認した。大きくウィリアムが頷く。ノートンは僅かに眉を顰めさせる。ややあって、ノートンがはあ、と気の抜けた返事をする。椅子の背もたれに体重を預け、天井を見上げる。ウィリアムはじっと何もない机上を見るだけだ。上等そうな天板は、それなりに粗暴に扱われたのか無数の傷が走っている。その傷痕をウィリアムは視線で追いかける。

「……そもそも何で俺に相談するの」

 疲労で滲んだ声がウィリアムの鼓膜を緩やかに揺する。一つ、深い溜息が部屋を満たす。

「こんなのナワーブとかに言えないだろ……」

 知らないよ、とノートンがくたびれたように呟く。帽子の隙間に指を挿し入れ、後頭部を軽く掻いている。どうでも良い、と言わんばかりの態度だ。ウィリアムは、どうにか出来ないかな、と何やらぶつぶつと呟いている。ささくれた指先が厚みのあるかさついた唇を撫でる。その割には瞳には迷いがない。ノートンは椅子に座り直し、ウィリアムを見る。

「どうして急に結婚したいとか言うようになったの?」
「好いた女が、ウェディングドレスを着たいって言ったからだよ」

 ほんの少しノートンは目を見開いた。薄く開いた口から、は、短音が落ちる。少しして、ふぅん、と呟いた。いつものように左の口角が上がっている。それでも眉間にはわずかに皺が寄せられていた。
 ウィリアムは自身の両頬を挟むようにして叩く。ぺちん、と乾いた音がした。軽い痛みで目の前の暗雲が消え去った、ような気持ちがする。気持ちだけだ。どうせウィリアム自身の中で何をするかなんて定まっている。実行するのが遅いか早いかだけだ。それならば、ああ、それならばとウィリアムは解を弾き出す。すっくと椅子から立ち上がる。真昼の星はいつまでも瞬いている。

「じゃあ、行って来る」

 そう言ってウィリアムは歩き出す。心臓は早鐘を打っている。それでも視界はどこまでも明瞭だ。まるで大きな大会に参加する直前のような高揚感だ。扉までの距離が酷く遠い。脳味噌の奥で観客の歓声が聞こえる。ああ、それは思い出しているだけだ。これからの行動は誰にも拍手喝采されるようなものでも不特定多数の誰かに興奮と感動を与えるようなものではない。たった一人、たった一人の少女の心を揺り動かすことが出来れば、と思うばかりだ。
 扉を押すとやたら重たく感じた。試合前にも幾度も感じたことのある現象だ。どうやってこの緊張から脱することが出来たのか。上手いこと考えはまとまらない。ああ、空回りしている。
 ウィル、と名前を呼ばれる。

「振られたら、宴会でも開いてあげる」

 振り返るとノートンがわらっていた。思わずウィリアムは吹き出す。これからプロポーズしようとしている、緊張している友人に掛ける言葉ではないだろうに。

「ばぁか、そこは『上手くいくと良いね』だろ」

 いつものように軽口を叩く。ノートンは何も言わない。いつものように薄い笑みを浮かべているだけだ。変な奴、とウィリアムは笑った。そのお陰で身体に入り過ぎていた力が適度に抜けた。ノートンなりの気遣いなのだろうとウィリアムは解釈をする。それじゃあ、とウィリアムは少女がいるであろう中庭に向かって歩き出した。
 中庭はエマが手入れをしている為にいつも綺麗な花が咲いており、枝が整えられた木たちは整然と並んでいる。その綺麗な花を一輪差しにし始めたのは誰だったか。花の甘い香りを感じながら広くはない中庭を歩く。カエルの置物がある池のような所の水は透き通って底まで良く見える。つい先日まで藻が浮いていたのに、いつのまに、とウィリアムはぼんやりと思った。辺りを見渡すと、ウィリアムの恋人は隅っこで何やら植物をいじっているようだ。ウィリアムが名前を呼ぶと少女は振り返り、嬉しそうに顔を綻ばせた。ウィリアムも釣られて笑う。胸のあたりがきぅと甘く締め付けられる。

「どうしたのウィリアム。ここに来るなんて珍しいね」

 ノートンさんは書庫じゃないかしら、ナワーブさんはきっとゲームよ、という少女にウィリアムは違うんだと首を横に振る。少女の柔らかな曲線を描く頬を掌で触れれば少女は少し驚いたような顔をしてから蕩けるように笑う。掌に頬を摺り寄せる様子が可愛くて、今すぐにでも口付けでも交わしたい気持ちになる。ああ、けれど今日は、今回はそのために来たんじゃないとウィリアムはぐ、と下唇を噛んだ。衝動を抑え込み、今回やるべきことを行おうと咳ばらいをした。

「な、なぁ」

 緊張のせいで舌が上手く動かない。ウィリアムはぎこちなく笑いを浮かべた。少女が不思議そうな顔をして、どうしたのと首を傾げる。柔らかな髪がウィリアムの皮膚を擽る。甘いような香りに畜生、と叫びたくなった。力いっぱい抱き締めて好きだと言いたい衝動をどうにかして落ち着かせる。

「あの、さ。前、ウェディングドレス着たいって言ってただろ」

 声が僅かに跳ねている。情けないとウィリアムの中で誰かの声が響く。そうね、と少女が瞬きをした。ええと、とウィリアムが口ごもる。ああ、早く言ってしまえ、言ってしまえと誰かの声が聞こえる。

「結婚、しないか」

 少女がゆっくりと瞬きをする。
 此処で出来ることなんて限られてるけど、それでも精一杯出来る筈だ。ウィリアムは信じている。一人ではきっと不可能でも此処にいる仲間の手を借りれば何でも出来るしなれると信じ切っている。
 ぽろ、と少女の目から透明な雫が落ちた。ウィリアムは驚き、目を見開く。

「お、おい、泣くなよ、」
「嬉しい……!」

 少女の声は喜色で揺らめいていた。少女は手で口を覆う。それでも少女の顔は輝かんばかりの幸福に満ちている。少女はウィリアムの胸に飛び込んだ。ウィリアムは力強い両手で少女を潰さないように気を付けながら強く抱き締める。う、う、と少女の口から押し殺した歓びの声が漏れる。ウィリアムは少女を慰めるように形の良い頭を優しく叩く。やれやれと言わんばかりに溜息を吐く。それでもウィリアムの顔は酷く優しいものだった。慈愛に満ちた顔だ。

「結婚式、挙げような」
「良いの?」

 囁くように言えばぱっと少女が顔を上げた。少女の目に星が煌めいている。ウィリアムの星が伝播したのだ。勿論とウィリアムは応える。少女は表情を柔らかくさせる。幸福で蕩けんばかりの笑顔だ。少女はもう一度ウィリアムの胸板に頬を摺り寄せさせる。

「荘園にいるから、ウィリアムと結婚式を挙げることも、ドレスも……何もかも諦めてたの」

 最初は貴方の隣にいるだけで良かったのにね、と少女が静かな声で呟く。そうだったのか、とウィリアムは少女の肩口に顔を埋めさせる。甘く、どこか懐かしいような匂いがする。

「幸せに、するからな」

 だからしたいこととか、そういったこととか教えてくれとウィリアムは酷く真面目な声で言う。少女の腕がウィリアムの背中に回る。少女は顔を上げて、ウィリアムを見る。目尻に残っている涙をウィリアムの指がそうっと掬い取る。少女が笑う。ウィリアムの、世界で一番好きな顔だ。大切にしたい表情だ。守りたい人間だ。

「私も。私もウィリアムを幸せにする」

 少女の心地良い声がウィリアムの鼓膜をくすぐらせる。ウィリアムは笑った。少女も笑う。どちらともなく額をくっつけさせる。やがて影は一つになった。
 少しして、少女はウィラとの約束があるからと名残惜しそうにウィリアムから離れた。またあとでね、とはにかむ少女が愛しい。別れがたいのか少女は中庭から出る直前に振り返り、手を振る。そして扉から出た。ぱたん、と扉が閉じる音が響く。一人残されたウィリアムはその場にしゃがみ込んだ。
 どくどくと心臓が今更になって弾み始めた。硬いはずの地面が柔らかくて転んでしまいそうだ。熱を出した日のように、頭がぼんやりとする。ウィリアムは壁にもたれかけた。壁の低い温度がウィリアムの身体から熱を奪っていく。硬く、心地良い温度の壁にウィリアムは頬をぺたりとくっつけさせる。夢ではない。嬉しくて、一人で勝手に笑いが零れてしまう。多幸福感でどうにかなってしまいそうだ。
 扉が開く。ウィリアムがゆっくり顔を上げるとノートンが何か冊子を持っていた。ウィリアムはふらふらとノートンに近寄る。地面がどうもふわふわとしている。

「ウィル、ちょっと明日のゲームの話なんだけ、」

 嬉しさのあまり、叫びたくなって、でも叫ぶのは不適切だと思った。代わりにぎゅ、と力強く抱き締めた。ちょっと、と迷惑そうにノートンが言う。

「俺、結婚する」

 ノートンが動きを止める。

「『嬉しい』って、言ってくれたんだ」

 ぽつ、ぽつ、とウィリアムの口から言葉が落ちる。先程の光景を思い出せばそれだけで胸が温かになり、身体全身に力が満ちてくる。

「はは、急に春が来たみたい、」

 幸せ過ぎて死んじまいそう。
 ウィリアムが眼の縁に涙を浮かべて呟く。

「……そう、なんだ」

 ノートンが呟いた。
「もう一度聞くけど、こんな狭い、何もない荘園で?」

 ノートンがほんの僅かに驚きと過半数以上の怪訝さをを滲ませて尋ねた。誰もいない食堂で音が妙に反射してうわんと響く。ウィリアムは真っ直ぐとノートンを見て頷く。ノートンは持っていた磁石を磨くのをやめて、じっとウィリアムを見る。夜色の瞳は普段何も感情を移さないのに、この瞬間だけは不可解さで出来ていた。それに対してウィリアムの瞳は何時だって星が瞬いている。今回もだ。今回もキラキラと煌めいている。濁ることを知らず、澄み切った光を溢れさせている。

「君は、君自身の恋人に、本気でプロポーズをするの?」

 一語一句噛み締めるようにしてノートンはウィリアムに確認した。大きくウィリアムが頷く。ノートンは僅かに眉を顰めさせる。ややあって、ノートンがはあ、と気の抜けた返事をする。椅子の背もたれに体重を預け、天井を見上げる。ウィリアムはじっと何もない机上を見るだけだ。上等そうな天板は、それなりに粗暴に扱われたのか無数の傷が走っている。その傷痕をウィリアムは視線で追いかける。

「……そもそも何で俺に相談するの」

 疲労で滲んだ声がウィリアムの鼓膜を緩やかに揺する。一つ、深い溜息が部屋を満たす。

「こんなのナワーブとかに言えないだろ……」

 知らないよ、とノートンがくたびれたように呟く。帽子の隙間に指を挿し入れ、後頭部を軽く掻いている。どうでも良い、と言わんばかりの態度だ。ウィリアムは、どうにか出来ないかな、と何やらぶつぶつと呟いている。ささくれた指先が厚みのあるかさついた唇を撫でる。その割には瞳には迷いがない。ノートンは椅子に座り直し、ウィリアムを見る。

「どうして急に結婚したいとか言うようになったの?」
「好いた女が、ウェディングドレスを着たいって言ったからだよ」

 ほんの少しノートンは目を見開いた。薄く開いた口から、は、短音が落ちる。少しして、ふぅん、と呟いた。いつものように左の口角が上がっている。それでも眉間にはわずかに皺が寄せられていた。
 ウィリアムは自身の両頬を挟むようにして叩く。ぺちん、と乾いた音がした。軽い痛みで目の前の暗雲が消え去った、ような気持ちがする。気持ちだけだ。どうせウィリアム自身の中で何をするかなんて定まっている。実行するのが遅いか早いかだけだ。それならば、ああ、それならばとウィリアムは解を弾き出す。すっくと椅子から立ち上がる。真昼の星はいつまでも瞬いている。

「じゃあ、行って来る」

 そう言ってウィリアムは歩き出す。心臓は早鐘を打っている。それでも視界はどこまでも明瞭だ。まるで大きな大会に参加する直前のような高揚感だ。扉までの距離が酷く遠い。脳味噌の奥で観客の歓声が聞こえる。ああ、それは思い出しているだけだ。これからの行動は誰にも拍手喝采されるようなものでも不特定多数の誰かに興奮と感動を与えるようなものではない。たった一人、たった一人の少女の心を揺り動かすことが出来れば、と思うばかりだ。
 扉を押すとやたら重たく感じた。試合前にも幾度も感じたことのある現象だ。どうやってこの緊張から脱することが出来たのか。上手いこと考えはまとまらない。ああ、空回りしている。
 ウィル、と名前を呼ばれる。

「振られたら、宴会でも開いてあげる」

 振り返るとノートンがわらっていた。思わずウィリアムは吹き出す。これからプロポーズしようとしている、緊張している友人に掛ける言葉ではないだろうに。

「ばぁか、そこは『上手くいくと良いね』だろ」

 いつものように軽口を叩く。ノートンは何も言わない。いつものように薄い笑みを浮かべているだけだ。変な奴、とウィリアムは笑った。そのお陰で身体に入り過ぎていた力が適度に抜けた。ノートンなりの気遣いなのだろうとウィリアムは解釈をする。それじゃあ、とウィリアムは少女がいるであろう中庭に向かって歩き出した。
 中庭はエマが手入れをしている為にいつも綺麗な花が咲いており、枝が整えられた木たちは整然と並んでいる。その綺麗な花を一輪差しにし始めたのは誰だったか。花の甘い香りを感じながら広くはない中庭を歩く。カエルの置物がある池のような所の水は透き通って底まで良く見える。つい先日まで藻が浮いていたのに、いつのまに、とウィリアムはぼんやりと思った。辺りを見渡すと、ウィリアムの恋人は隅っこで何やら植物をいじっているようだ。ウィリアムが名前を呼ぶと少女は振り返り、嬉しそうに顔を綻ばせた。ウィリアムも釣られて笑う。胸のあたりがきぅと甘く締め付けられる。

「どうしたのウィリアム。ここに来るなんて珍しいね」

 ノートンさんは書庫じゃないかしら、ナワーブさんはきっとゲームよ、という少女にウィリアムは違うんだと首を横に振る。少女の柔らかな曲線を描く頬を掌で触れれば少女は少し驚いたような顔をしてから蕩けるように笑う。掌に頬を摺り寄せる様子が可愛くて、今すぐにでも口付けでも交わしたい気持ちになる。ああ、けれど今日は、今回はそのために来たんじゃないとウィリアムはぐ、と下唇を噛んだ。衝動を抑え込み、今回やるべきことを行おうと咳ばらいをした。

「な、なぁ」

 緊張のせいで舌が上手く動かない。ウィリアムはぎこちなく笑いを浮かべた。少女が不思議そうな顔をして、どうしたのと首を傾げる。柔らかな髪がウィリアムの皮膚を擽る。甘いような香りに畜生、と叫びたくなった。力いっぱい抱き締めて好きだと言いたい衝動をどうにかして落ち着かせる。

「あの、さ。前、ウェディングドレス着たいって言ってただろ」

 声が僅かに跳ねている。情けないとウィリアムの中で誰かの声が響く。そうね、と少女が瞬きをした。ええと、とウィリアムが口ごもる。ああ、早く言ってしまえ、言ってしまえと誰かの声が聞こえる。

「結婚、しないか」

 少女がゆっくりと瞬きをする。
 此処で出来ることなんて限られてるけど、それでも精一杯出来る筈だ。ウィリアムは信じている。一人ではきっと不可能でも此処にいる仲間の手を借りれば何でも出来るしなれると信じ切っている。
 ぽろ、と少女の目から透明な雫が落ちた。ウィリアムは驚き、目を見開く。

「お、おい、泣くなよ、」
「嬉しい……!」

 少女の声は喜色で揺らめいていた。少女は手で口を覆う。それでも少女の顔は輝かんばかりの幸福に満ちている。少女はウィリアムの胸に飛び込んだ。ウィリアムは力強い両手で少女を潰さないように気を付けながら強く抱き締める。う、う、と少女の口から押し殺した歓びの声が漏れる。ウィリアムは少女を慰めるように形の良い頭を優しく叩く。やれやれと言わんばかりに溜息を吐く。それでもウィリアムの顔は酷く優しいものだった。慈愛に満ちた顔だ。

「結婚式、挙げような」
「良いの?」

 囁くように言えばぱっと少女が顔を上げた。少女の目に星が煌めいている。ウィリアムの星が伝播したのだ。勿論とウィリアムは応える。少女は表情を柔らかくさせる。幸福で蕩けんばかりの笑顔だ。少女はもう一度ウィリアムの胸板に頬を摺り寄せさせる。

「荘園にいるから、ウィリアムと結婚式を挙げることも、ドレスも……何もかも諦めてたの」

 最初は貴方の隣にいるだけで良かったのにね、と少女が静かな声で呟く。そうだったのか、とウィリアムは少女の肩口に顔を埋めさせる。甘く、どこか懐かしいような匂いがする。

「幸せに、するからな」

 だからしたいこととか、そういったこととか教えてくれとウィリアムは酷く真面目な声で言う。少女の腕がウィリアムの背中に回る。少女は顔を上げて、ウィリアムを見る。目尻に残っている涙をウィリアムの指がそうっと掬い取る。少女が笑う。ウィリアムの、世界で一番好きな顔だ。大切にしたい表情だ。守りたい人間だ。

「私も。私もウィリアムを幸せにする」

 少女の心地良い声がウィリアムの鼓膜をくすぐらせる。ウィリアムは笑った。少女も笑う。どちらともなく額をくっつけさせる。やがて影は一つになった。
 少しして、少女はウィラとの約束があるからと名残惜しそうにウィリアムから離れた。またあとでね、とはにかむ少女が愛しい。別れがたいのか少女は中庭から出る直前に振り返り、手を振る。そして扉から出た。ぱたん、と扉が閉じる音が響く。一人残されたウィリアムはその場にしゃがみ込んだ。
 どくどくと心臓が今更になって弾み始めた。硬いはずの地面が柔らかくて転んでしまいそうだ。熱を出した日のように、頭がぼんやりとする。ウィリアムは壁にもたれかけた。壁の低い温度がウィリアムの身体から熱を奪っていく。硬く、心地良い温度の壁にウィリアムは頬をぺたりとくっつけさせる。夢ではない。嬉しくて、一人で勝手に笑いが零れてしまう。多幸福感でどうにかなってしまいそうだ。
 扉が開く。ウィリアムがゆっくり顔を上げるとノートンが何か冊子を持っていた。ウィリアムはふらふらとノートンに近寄る。地面がどうもふわふわとしている。

「ウィル、ちょっと明日のゲームの話なんだけ、」

 嬉しさのあまり、叫びたくなって、でも叫ぶのは不適切だと思った。代わりにぎゅ、と力強く抱き締めた。ちょっと、と迷惑そうにノートンが言う。

「俺、結婚する」

 ノートンが動きを止める。

「『嬉しい』って、言ってくれたんだ」

 ぽつ、ぽつ、とウィリアムの口から言葉が落ちる。先程の光景を思い出せばそれだけで胸が温かになり、身体全身に力が満ちてくる。

「はは、急に春が来たみたい、」

 幸せ過ぎて死んじまいそう。
 ウィリアムが眼の縁に涙を浮かべて呟く。

「……そう、なんだ」

 ノートンが呟いた。
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