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Novel pkmn 今日はえいえんの最初の日(シンオウでウォロと再会/完結)
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tt5 !+さよならの練習を(男主とオフェンスが過ごす真夏の話/現パロ/完結)
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さよならの練習を04

オフェンス
 茹だるような暑さの中、{{ namae }}はぼんやりとスーパーの袋の中にある食事たちが痛まないか心配した。セミがそんな{{ namae }}を嘲笑っている。声を上げて笑っている。馬鹿にしている。もう少しスーパーにいれば良かったかなとぼんやりと思った。思うだけだ。足はせこせこと熱されたアスファルトの上を歩いていく。早く帰りたい気持ちばかりが{{ namae }}の目の前を走っている。熱で碌にはたらかない頭でも、足は確実に帰路を歩いている。
 部屋にウィリアムがいるからだ。
 目の前にぱっと光が落ちた気がした。セミの声が一瞬だけ途切れる。頭上にカラスでもよぎったのだろう。
 {{ namae }}はウィリアムの名前を大切そうに呟く。お祈りをするときのように呟く。舌の上で丹念に転がして、一つひとつ、丁寧に音にする。
 セミが大合唱をし始めた。祝ってくれているのだ、と汗だくの脳味噌は錯覚する。熱されたアスファルトの上に大型のセミが肢を広げて仰向けに寝転んでいる。その横を大勢のアリたちが楽しそうに蠢いていた。
 暫くして、{{ namae }}は自室の前へと来た。鍵を開けてドアを開く。涼しい風が{{ namae }}の腕を舐めた。クーラーの効いた涼しい部屋に入るとウィリアムがおかえりと言ってくれる。単純な嬉しさに{{ namae }}は頬を緩ませた。何か楽しいことでもあったのか、とウィリアムが楽しそうに尋ねる。何でもないよと言う。言うべきことではないし、わざわざ伝えるまででもない。
 レジ袋から総菜を取り出し皿に移してレンジに入れた。ウィリアムは相変わらずふよふよと宙を漂っている。{{ namae }}はウィリアムの健康そうな足首に絡みつく、赤い紐が椅子に括られているのを見て安堵感に目を細める。
 {{ namae }}は食事を終えた容器を軽く水で洗ってからゴミ箱に入れた。今度百貨店の地下にある総菜を買って美味しいお酒を飲んでみたい。家にテレビが無いので気を紛らわせるために音楽を流す。何度も聞いたアーティストの歌声が軽快な曲に乗せられている。このアーティスト、好きなんだとウィリアムに言われてそうなんだと頷いたのはまだ制服に袖を通していた頃だ。

「あのさ、ウィリアム」

 ぽつり、と{{ namae }}が呟く。甘えたような子供の声だ。ええと、と言葉を選んでいる。ウィリアムは急かすこともせずに{{ namae }}の言葉を待っている。

「一緒に何処か、遊びに行かない?」

 {{ namae }}の言葉にウィリアムは瞬きをする。何かを考えるように視線を左から右へと移動させる。

「{{ namae }}、よく考えろよ。浮かぶ男を連れて行く男って、どこからどう見てもツッコミどころしかないぞ」

 そう言われて初めて{{ namae }}は想像してみる。確かに、どこからどう見てもおかしい点しかない。しかも知り合いに会ったら大変だ。{{ namae }}の脳裏にイライやナワーブ、イソップにノートンの姿が過る。ウィリアムが何かに誘ってくれたときには大抵彼らがいた。何度も顔を合わしたり言葉を交わしたりしているためにお互いがお互いの存在を知っている。ウィリアムに言わせてみれば友達、{{ namae }}に言わせてみれば少し親しい顔見知りだ。

「うん、そうだけど。でも、ウィリアムと海とか、公園とか、水族館とか……あちこち行きたい」

 去年とても楽しかったから、と{{ namae }}は楽しい記憶に触れる。人込みの多い場所でもウィリアムは{{ namae }}を見付けてくれる。海に遊びに行ったときに、{{ namae }}が岩の裏でぼうっとしていたらウィリアムが来てくれたことがある。あまり人のいないその空間でほんの少しだけ、自分二人だけを残して世界に置いて行かれたような気持ちになったこともある。{{ namae }}は、隣にいるのがウィリアムだったからその感覚が嫌いではなかった。そのまま続けば良いのになぁと願いながら他愛のないことを一言二言言葉を交わした。
 ウィリアムは覚えていないだろうけれど、{{ namae }}にとっては大切な思い出だ。イライたちが眠る電車の中で、{{ namae }}だけは目を開けていた。夜の海はどこまでも暗い。明るい電車の中で数人の鼾や寝息が聞こえる。隣に座っていたウィリアムが不意に伸びをした。大きな欠伸をして寝ぼけ眼で{{ namae }}と目が合う。そのウィリアムのあどけなさと言ったら筆舌に尽くし難いものだった。来年も行きたいね、と静かな声で言えば、ウィリアムが連れてってやるよといつもよりも気の抜けた笑顔と声で返してくれた。触れたくなって、耳の後ろ擽っていれば、ウィリアムは寝てしまった。思えばもう既に{{ namae }}はウィリアムに対して好意を抱いていたのだろう。
 {{ namae }}は反射的に息を鋭く吸った。息苦しさは緩和されない。
 この感情は、出してはいけない。もう表に出してはいけない。後悔するだろう、しただろう。あれ、いつ、どこで、出したことがあるのだっけ。後悔したことがあるのだっけ。
 じわり。冷たい汗が分泌され、背中を流れる。
 何か、忘れているような気がする。何を忘れた? 何が思い出せない? 重大な何か。
 脳裏にオレンジ色の景色が一瞬だけ過る。
――何だったっけ。これは何だっけ
 脳味噌のはたらきが鈍くなる。
――そういえば
 はたり、と{{ namae }}は気が付いた。視界がじわりと暗くなる。何度も呼吸を繰り返しているのに全く楽にならない。
――ウィリアムは、あれ以降何も連絡を返してくれない

「――大丈夫か?」

 ウィリアムの声で{{ namae }}の意識は現実に返って来る。顔を上げればウィリアムが心配そうに眉尻を下げていた。
 そうだ、何を忘れていようがどうでも良いじゃないか。忘れていると言うことは、覚える価値が無いことに違いない。
 そう納得をして{{ namae }}はウィリアムに心配をかけないようにと笑いかける。

「うん、ちょっと、いつもの癖かな」

 自身の喉に触れる。意識的に息を吸って、吐いた。息苦しさはない。
 なら良いけど、とウィリアムが言う。いけない、心配させてしまった。{{ namae }}はごまかすように、水族館、と呟いた。ウィリアムは口をへの字にさせて自分の後頭部をがしがしと掻いている。迷っているのだ。あともう一押しすれば行けそうな気がする。なんだかんだでウィリアムは優しい人だ。

「水族館は諦めるけど……例えば真夜中の散歩だったら……良い? それでも、ダメ?」

 {{ namae }}は申し訳なさそうに眉を顰めさせた。その顔で僅かに首を傾げて、ウィリアムを見上げる。そうすれば大抵ウィリアムは折れてくれる、気がする。経験則だ。もしかしたらダメかもしれない。気のせいかもしれない。ウィリアムが溜息を吐いた。

「お前、それわざと?」
「……え?」

 ウィリアムの言葉に{{ namae }}は自身の口角が上がるのを感じた。

2020/07/05
2022/06/07
 茹だるような暑さの中、{{ namae }}はぼんやりとスーパーの袋の中にある食事たちが痛まないか心配した。セミがそんな{{ namae }}を嘲笑っている。声を上げて笑っている。馬鹿にしている。もう少しスーパーにいれば良かったかなとぼんやりと思った。思うだけだ。足はせこせこと熱されたアスファルトの上を歩いていく。早く帰りたい気持ちばかりが{{ namae }}の目の前を走っている。熱で碌にはたらかない頭でも、足は確実に帰路を歩いている。
 部屋にウィリアムがいるからだ。
 目の前にぱっと光が落ちた気がした。セミの声が一瞬だけ途切れる。頭上にカラスでもよぎったのだろう。
 {{ namae }}はウィリアムの名前を大切そうに呟く。お祈りをするときのように呟く。舌の上で丹念に転がして、一つひとつ、丁寧に音にする。
 セミが大合唱をし始めた。祝ってくれているのだ、と汗だくの脳味噌は錯覚する。熱されたアスファルトの上に大型のセミが肢を広げて仰向けに寝転んでいる。その横を大勢のアリたちが楽しそうに蠢いていた。
 暫くして、{{ namae }}は自室の前へと来た。鍵を開けてドアを開く。涼しい風が{{ namae }}の腕を舐めた。クーラーの効いた涼しい部屋に入るとウィリアムがおかえりと言ってくれる。単純な嬉しさに{{ namae }}は頬を緩ませた。何か楽しいことでもあったのか、とウィリアムが楽しそうに尋ねる。何でもないよと言う。言うべきことではないし、わざわざ伝えるまででもない。
 レジ袋から総菜を取り出し皿に移してレンジに入れた。ウィリアムは相変わらずふよふよと宙を漂っている。{{ namae }}はウィリアムの健康そうな足首に絡みつく、赤い紐が椅子に括られているのを見て安堵感に目を細める。
 {{ namae }}は食事を終えた容器を軽く水で洗ってからゴミ箱に入れた。今度百貨店の地下にある総菜を買って美味しいお酒を飲んでみたい。家にテレビが無いので気を紛らわせるために音楽を流す。何度も聞いたアーティストの歌声が軽快な曲に乗せられている。このアーティスト、好きなんだとウィリアムに言われてそうなんだと頷いたのはまだ制服に袖を通していた頃だ。

「あのさ、ウィリアム」

 ぽつり、と{{ namae }}が呟く。甘えたような子供の声だ。ええと、と言葉を選んでいる。ウィリアムは急かすこともせずに{{ namae }}の言葉を待っている。

「一緒に何処か、遊びに行かない?」

 {{ namae }}の言葉にウィリアムは瞬きをする。何かを考えるように視線を左から右へと移動させる。

「{{ namae }}、よく考えろよ。浮かぶ男を連れて行く男って、どこからどう見てもツッコミどころしかないぞ」

 そう言われて初めて{{ namae }}は想像してみる。確かに、どこからどう見てもおかしい点しかない。しかも知り合いに会ったら大変だ。{{ namae }}の脳裏にイライやナワーブ、イソップにノートンの姿が過る。ウィリアムが何かに誘ってくれたときには大抵彼らがいた。何度も顔を合わしたり言葉を交わしたりしているためにお互いがお互いの存在を知っている。ウィリアムに言わせてみれば友達、{{ namae }}に言わせてみれば少し親しい顔見知りだ。

「うん、そうだけど。でも、ウィリアムと海とか、公園とか、水族館とか……あちこち行きたい」

 去年とても楽しかったから、と{{ namae }}は楽しい記憶に触れる。人込みの多い場所でもウィリアムは{{ namae }}を見付けてくれる。海に遊びに行ったときに、{{ namae }}が岩の裏でぼうっとしていたらウィリアムが来てくれたことがある。あまり人のいないその空間でほんの少しだけ、自分二人だけを残して世界に置いて行かれたような気持ちになったこともある。{{ namae }}は、隣にいるのがウィリアムだったからその感覚が嫌いではなかった。そのまま続けば良いのになぁと願いながら他愛のないことを一言二言言葉を交わした。
 ウィリアムは覚えていないだろうけれど、{{ namae }}にとっては大切な思い出だ。イライたちが眠る電車の中で、{{ namae }}だけは目を開けていた。夜の海はどこまでも暗い。明るい電車の中で数人の鼾や寝息が聞こえる。隣に座っていたウィリアムが不意に伸びをした。大きな欠伸をして寝ぼけ眼で{{ namae }}と目が合う。そのウィリアムのあどけなさと言ったら筆舌に尽くし難いものだった。来年も行きたいね、と静かな声で言えば、ウィリアムが連れてってやるよといつもよりも気の抜けた笑顔と声で返してくれた。触れたくなって、耳の後ろ擽っていれば、ウィリアムは寝てしまった。思えばもう既に{{ namae }}はウィリアムに対して好意を抱いていたのだろう。
 {{ namae }}は反射的に息を鋭く吸った。息苦しさは緩和されない。
 この感情は、出してはいけない。もう表に出してはいけない。後悔するだろう、しただろう。あれ、いつ、どこで、出したことがあるのだっけ。後悔したことがあるのだっけ。
 じわり。冷たい汗が分泌され、背中を流れる。
 何か、忘れているような気がする。何を忘れた? 何が思い出せない? 重大な何か。
 脳裏にオレンジ色の景色が一瞬だけ過る。
――何だったっけ。これは何だっけ
 脳味噌のはたらきが鈍くなる。
――そういえば
 はたり、と{{ namae }}は気が付いた。視界がじわりと暗くなる。何度も呼吸を繰り返しているのに全く楽にならない。
――ウィリアムは、あれ以降何も連絡を返してくれない

「――大丈夫か?」

 ウィリアムの声で{{ namae }}の意識は現実に返って来る。顔を上げればウィリアムが心配そうに眉尻を下げていた。
 そうだ、何を忘れていようがどうでも良いじゃないか。忘れていると言うことは、覚える価値が無いことに違いない。
 そう納得をして{{ namae }}はウィリアムに心配をかけないようにと笑いかける。

「うん、ちょっと、いつもの癖かな」

 自身の喉に触れる。意識的に息を吸って、吐いた。息苦しさはない。
 なら良いけど、とウィリアムが言う。いけない、心配させてしまった。{{ namae }}はごまかすように、水族館、と呟いた。ウィリアムは口をへの字にさせて自分の後頭部をがしがしと掻いている。迷っているのだ。あともう一押しすれば行けそうな気がする。なんだかんだでウィリアムは優しい人だ。

「水族館は諦めるけど……例えば真夜中の散歩だったら……良い? それでも、ダメ?」

 {{ namae }}は申し訳なさそうに眉を顰めさせた。その顔で僅かに首を傾げて、ウィリアムを見上げる。そうすれば大抵ウィリアムは折れてくれる、気がする。経験則だ。もしかしたらダメかもしれない。気のせいかもしれない。ウィリアムが溜息を吐いた。

「お前、それわざと?」
「……え?」

 ウィリアムの言葉に{{ namae }}は自身の口角が上がるのを感じた。

2020/07/05
2022/06/07
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非公式二次創作夢サイト。公式及び関係者様とは一切関係ありません。様々な友情、恋愛の形が許せる方推奨です。
R-15ですので中学生を含む十五歳以下の方は閲覧をお控えください。前触れも無く悲恋、暴力的表現、流血、性描写、倫理的問題言動、捏造、オリジナル設定、キャラ崩壊等を含みます。ネタバレに関してはほぼ配慮してません。夢主≠主人公です。
R-18作品についてはワンクッションがあります。高校生を含む十八歳未満の方は閲覧をお控えください。
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