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Novel pkmn 今日はえいえんの最初の日(シンオウでウォロと再会/完結)
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tt5 !+さよならの練習を(男主とオフェンスが過ごす真夏の話/現パロ/完結)
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そうしてふたりは、

アオキ

「自分の仕事が遅い時もありますから」

 良かったら、と渡されたのは平べったくした鉄で出来た特徴的な形のものだ。{{ namae }}は瞬時に理解した。これはアオキの家の鍵だ。アオキと{{ namae }}が所謂恋人関係になってからそれなりになる。つまりこれは同棲を許しているってことでは、プロポーズってことなのでは、と先走る気持ちをどうにかして落ち着かせる。いつでも遊びに行っても良いんですか、と控え目に尋ねれば、アオキはほんの僅かに目を柔らかくさせて、好きな時に来てください、けれど安全のために鍵はかけてくださいねと答えた。
 これは{{ namae }}の中で今年度というより最早人生において衝撃的で嬉しい出来事に入ることだ。
 仕事で失敗をしてしまったときも開けたばかりのコーンフレークをひっくり返したときもポケットの中にある、アオキの家の鍵を強く握り締めれば身体の奥底から力が湧き出て、何にもでなれるような気持ちになる。要するに、{{ namae }}にとってアオキの鍵は何にでもなれるし何でもできるような魔法のアイテムだ。挫けそうなときもへこんでしまったときでも鍵さえあれば{{ namae }}は何度も立ち上がることが出来る。
 営業職にジムリーダーに四天王の三足の草鞋を履きこなすアオキは{{ namae }}から見てもとても忙しそうだ。{{ namae }}自身が出来ることと、{{ namae }}自身がしたいことを考えて、{{ namae }}は仕事を早めに切り上げた。今夜行きますと連絡を入れて、{{ namae }}はアオキの鍵をぎゅっと握り締めた。何となく頭が冴え渡るような感覚がする。人の家にある食材を勝手に使うのは気が引けたので、{{ namae }}はスーパーに寄って材料を購入する。台所にある程度の調理器具、食器棚に耐熱容器があるのは知っている。昔何処かで聞いたことのある歌を鼻歌にして{{ namae }}はアオキの家へと向かった。
 同じ扉がいくつも並ぶ廊下を歩く。アオキの部屋は何度か行ったことがあるので、思ったよりも迷わずに辿り着くことができた。鍵を挿し込み、回すとかちゃりと解除された音がする。{{ namae }}が扉を開いて、鍵をかけた。物が少ないから散らかっている印象の無い部屋は、殆ど寝る為だけの部屋だ。あまりものを勝手に触るのはよくないと判断し、明らかに邪魔なものだけを隅に寄せて置く。アオキが帰宅してから洗濯機に入れても良いか、捨てても良いかの判断をしてもらおうと予定を立てる。
 {{ namae }}は冷蔵庫を開いた。思っていた通り冷蔵庫は栄養ドリンクと缶ビールが数本あるだけでほぼ空っぽだ。身体壊しちゃいますよぉ、と誰かに伝わるわけでもないのに{{ namae }}は独り言つ。
 {{ namae }}は台所に立った。もしも何処かで夕食をしていたら明日の夕飯にでもしてもらおう。そう思いながら買ったばかりの瑞々しいトマトを持った。今日はグラタンとコンソメスープとサラダだ。
 {{ namae }}が調理を殆ど終えて食卓を整えたあと、いつの間にか寝てしまっていた。窓の外はすっかり暗くなっている。{{ namae }}はカーテンを閉じた。蛍光灯の白い光は部屋の隅々まで照らしている。部屋の隅に置いてある、恐らくムクホークのと思われる止り木をぼんやりと見る。とりポケモンを育てるならばあった方が良いのかなとぼんやりと思うと同時に鍵が開く音がした。{{ namae }}は嬉しさから破顔し、玄関へ向かう。

「おかえりなさい」

 ただいま戻りました、とアオキが靴を脱ぎながら玄関に入る。ネクタイを手で緩めているのを見て、{{ namae }}は何だか新婚のようで一人で照れ笑いを浮かべる。

「そうだ、ご飯出来てますよ」
「ご飯……?」

 アオキは僅かに目を見開いた。だがすぐに眉を僅かに下げさせ、首を横に振る。そういえば夕飯作ってますと言っていなかったことを{{ namae }}は思い出した。もしかして食べちゃいました、と尋ねればアオキは首を横に振る。

「鍵を渡したのは……、決して自分は{{ namae }}さんの負担になることをさせたかったわけでは、」
「負担だなんて! アオキさんに健康的な食事をして欲しいですし……」

 それでもと双方譲り合う言葉が交差する。結局アオキが材料費を支払うことで落ち着いた。レシートはと尋ねられ、{{ namae }}は咄嗟に捨てたと言う。アオキはそうですか、と返してから少し考えているような顔をしていた。{{ namae }}がグラタンをオーブンに入れ、スープを温めているときにどうぞと手渡された金額はどう考えても過剰だった。多すぎますよと返そうとしたがアオキは手間賃だと言って受け取ってくれなかった。こうなったら少しでも身体に良い物を買って還元するしかないと{{ namae }}はひっそりと決意する。
 二人で食卓に食事を並べて行く。向かいに座って頂きますをした。サラダは瑞々しい鮮やかなトマトが思ったよりもずっと甘かった。当たりだぁと{{ namae }}は嬉しそうにほほ笑む。グラタンのチーズはこんがりと焼けており、食欲をそそらせる。コンソメスープは具を多く入れたために食べ応えがあった。とても美味しいです、とアオキがもぐもぐと食べて行くのを見て{{ namae }}は達成感のようなものを覚える。また作りますね、と言えば負担で無ければお願いしますと頭を下げられる。後片付けはアオキがしてくれた。{{ namae }}は買って来たミカンを剥いては口に入れていく。甘酸っぱい味が丁度良い。戻ってきたアオキさんにどうぞと渡すとありがとうございますと受け取った。アオキはテレビを点けた。別に見たい番組でもない、ただ流しているだけのものだ。何処かの地方の人たちが地方の特色をふんだんに詰めた創作サンドウィッチを作っている。二人はそれを背景音楽として、もくもくとミカンを食べて行く。他愛ない、仕事とは無縁のことを話しながら、また一つ、また一つとミカンが消えていく。

「{{ namae }}さん、そろそろ帰らないと不味いんじゃないですか?」

 時計を見ればあと三時間ほどで天辺を越える頃だ。これから家に帰り、風呂や歯磨きなど寝る前にやるべきことを考えると少し気が重くなる。これまでも{{ namae }}はアオキの部屋に遊びに行くことはあったが、いつも帰るときが億劫で寂しく感じる。送りますよとアオキが立ち上がったのに、{{ namae }}は座ったままだ。帰りたくない、とぽかんと浮かんだ言葉は鉛のように{{ namae }}の身体に沈み込む。明日も仕事なのだから、帰って備えた方がずっと良いことを知っているし理解もしている。解ってはいるが感情はついて来ない。うう、と何にもならない音を呻いて、{{ namae }}は机に突っ伏した。

「もう住んじゃおうかな……」

 言った直後に後悔をした。そんな人を困らすような事を言ってはいけないと理知的な部分が叫んでいる。噓ですと言えば無かったことになるだろうか、いや、面倒くさい人だと思われただろうか、と良くない考えがそのうちバターになってしまいそうほどぐるぐると回る。

「良いですよ」

 {{ namae }}は反射的に顔を上げた。耳を疑った。アオキはいつもと変わらない顔でミカンの房を手で割り、口に入れて咀嚼をしている。ごくん、と喉が上下した。{{ namae }}のぽかんと開かれた口にミカンの房を入れられる。{{ namae }}は目をぱちくりとさせながらミカンを咀嚼する。酸味の少ない、甘いミカンだった。
 一緒に住みますか、とアオキが問う。{{ namae }}はミカンを飲み下す。先程の良くない考えは散り散りになって消えた。光量は変わっていない筈なのに、世界が輝いて見える。良いの、本当に、と{{ namae }}の頭上に疑問符が飛んでいる。アオキは平常と変わらない顔だ。アオキに限ってそんな嘘を吐くことがない、吐くはずがない。

「よ、喜んで……」

 それではよろしくお願いしますとアオキが深々と頭を下げる。{{ namae }}も慌てて頭を下げる。頭を下げながら、もう少しウィットに富んだ返事が出来なかった自分が少しだけ悔しかった。

2023/01/08

「自分の仕事が遅い時もありますから」

 良かったら、と渡されたのは平べったくした鉄で出来た特徴的な形のものだ。{{ namae }}は瞬時に理解した。これはアオキの家の鍵だ。アオキと{{ namae }}が所謂恋人関係になってからそれなりになる。つまりこれは同棲を許しているってことでは、プロポーズってことなのでは、と先走る気持ちをどうにかして落ち着かせる。いつでも遊びに行っても良いんですか、と控え目に尋ねれば、アオキはほんの僅かに目を柔らかくさせて、好きな時に来てください、けれど安全のために鍵はかけてくださいねと答えた。
 これは{{ namae }}の中で今年度というより最早人生において衝撃的で嬉しい出来事に入ることだ。
 仕事で失敗をしてしまったときも開けたばかりのコーンフレークをひっくり返したときもポケットの中にある、アオキの家の鍵を強く握り締めれば身体の奥底から力が湧き出て、何にもでなれるような気持ちになる。要するに、{{ namae }}にとってアオキの鍵は何にでもなれるし何でもできるような魔法のアイテムだ。挫けそうなときもへこんでしまったときでも鍵さえあれば{{ namae }}は何度も立ち上がることが出来る。
 営業職にジムリーダーに四天王の三足の草鞋を履きこなすアオキは{{ namae }}から見てもとても忙しそうだ。{{ namae }}自身が出来ることと、{{ namae }}自身がしたいことを考えて、{{ namae }}は仕事を早めに切り上げた。今夜行きますと連絡を入れて、{{ namae }}はアオキの鍵をぎゅっと握り締めた。何となく頭が冴え渡るような感覚がする。人の家にある食材を勝手に使うのは気が引けたので、{{ namae }}はスーパーに寄って材料を購入する。台所にある程度の調理器具、食器棚に耐熱容器があるのは知っている。昔何処かで聞いたことのある歌を鼻歌にして{{ namae }}はアオキの家へと向かった。
 同じ扉がいくつも並ぶ廊下を歩く。アオキの部屋は何度か行ったことがあるので、思ったよりも迷わずに辿り着くことができた。鍵を挿し込み、回すとかちゃりと解除された音がする。{{ namae }}が扉を開いて、鍵をかけた。物が少ないから散らかっている印象の無い部屋は、殆ど寝る為だけの部屋だ。あまりものを勝手に触るのはよくないと判断し、明らかに邪魔なものだけを隅に寄せて置く。アオキが帰宅してから洗濯機に入れても良いか、捨てても良いかの判断をしてもらおうと予定を立てる。
 {{ namae }}は冷蔵庫を開いた。思っていた通り冷蔵庫は栄養ドリンクと缶ビールが数本あるだけでほぼ空っぽだ。身体壊しちゃいますよぉ、と誰かに伝わるわけでもないのに{{ namae }}は独り言つ。
 {{ namae }}は台所に立った。もしも何処かで夕食をしていたら明日の夕飯にでもしてもらおう。そう思いながら買ったばかりの瑞々しいトマトを持った。今日はグラタンとコンソメスープとサラダだ。
 {{ namae }}が調理を殆ど終えて食卓を整えたあと、いつの間にか寝てしまっていた。窓の外はすっかり暗くなっている。{{ namae }}はカーテンを閉じた。蛍光灯の白い光は部屋の隅々まで照らしている。部屋の隅に置いてある、恐らくムクホークのと思われる止り木をぼんやりと見る。とりポケモンを育てるならばあった方が良いのかなとぼんやりと思うと同時に鍵が開く音がした。{{ namae }}は嬉しさから破顔し、玄関へ向かう。

「おかえりなさい」

 ただいま戻りました、とアオキが靴を脱ぎながら玄関に入る。ネクタイを手で緩めているのを見て、{{ namae }}は何だか新婚のようで一人で照れ笑いを浮かべる。

「そうだ、ご飯出来てますよ」
「ご飯……?」

 アオキは僅かに目を見開いた。だがすぐに眉を僅かに下げさせ、首を横に振る。そういえば夕飯作ってますと言っていなかったことを{{ namae }}は思い出した。もしかして食べちゃいました、と尋ねればアオキは首を横に振る。

「鍵を渡したのは……、決して自分は{{ namae }}さんの負担になることをさせたかったわけでは、」
「負担だなんて! アオキさんに健康的な食事をして欲しいですし……」

 それでもと双方譲り合う言葉が交差する。結局アオキが材料費を支払うことで落ち着いた。レシートはと尋ねられ、{{ namae }}は咄嗟に捨てたと言う。アオキはそうですか、と返してから少し考えているような顔をしていた。{{ namae }}がグラタンをオーブンに入れ、スープを温めているときにどうぞと手渡された金額はどう考えても過剰だった。多すぎますよと返そうとしたがアオキは手間賃だと言って受け取ってくれなかった。こうなったら少しでも身体に良い物を買って還元するしかないと{{ namae }}はひっそりと決意する。
 二人で食卓に食事を並べて行く。向かいに座って頂きますをした。サラダは瑞々しい鮮やかなトマトが思ったよりもずっと甘かった。当たりだぁと{{ namae }}は嬉しそうにほほ笑む。グラタンのチーズはこんがりと焼けており、食欲をそそらせる。コンソメスープは具を多く入れたために食べ応えがあった。とても美味しいです、とアオキがもぐもぐと食べて行くのを見て{{ namae }}は達成感のようなものを覚える。また作りますね、と言えば負担で無ければお願いしますと頭を下げられる。後片付けはアオキがしてくれた。{{ namae }}は買って来たミカンを剥いては口に入れていく。甘酸っぱい味が丁度良い。戻ってきたアオキさんにどうぞと渡すとありがとうございますと受け取った。アオキはテレビを点けた。別に見たい番組でもない、ただ流しているだけのものだ。何処かの地方の人たちが地方の特色をふんだんに詰めた創作サンドウィッチを作っている。二人はそれを背景音楽として、もくもくとミカンを食べて行く。他愛ない、仕事とは無縁のことを話しながら、また一つ、また一つとミカンが消えていく。

「{{ namae }}さん、そろそろ帰らないと不味いんじゃないですか?」

 時計を見ればあと三時間ほどで天辺を越える頃だ。これから家に帰り、風呂や歯磨きなど寝る前にやるべきことを考えると少し気が重くなる。これまでも{{ namae }}はアオキの部屋に遊びに行くことはあったが、いつも帰るときが億劫で寂しく感じる。送りますよとアオキが立ち上がったのに、{{ namae }}は座ったままだ。帰りたくない、とぽかんと浮かんだ言葉は鉛のように{{ namae }}の身体に沈み込む。明日も仕事なのだから、帰って備えた方がずっと良いことを知っているし理解もしている。解ってはいるが感情はついて来ない。うう、と何にもならない音を呻いて、{{ namae }}は机に突っ伏した。

「もう住んじゃおうかな……」

 言った直後に後悔をした。そんな人を困らすような事を言ってはいけないと理知的な部分が叫んでいる。噓ですと言えば無かったことになるだろうか、いや、面倒くさい人だと思われただろうか、と良くない考えがそのうちバターになってしまいそうほどぐるぐると回る。

「良いですよ」

 {{ namae }}は反射的に顔を上げた。耳を疑った。アオキはいつもと変わらない顔でミカンの房を手で割り、口に入れて咀嚼をしている。ごくん、と喉が上下した。{{ namae }}のぽかんと開かれた口にミカンの房を入れられる。{{ namae }}は目をぱちくりとさせながらミカンを咀嚼する。酸味の少ない、甘いミカンだった。
 一緒に住みますか、とアオキが問う。{{ namae }}はミカンを飲み下す。先程の良くない考えは散り散りになって消えた。光量は変わっていない筈なのに、世界が輝いて見える。良いの、本当に、と{{ namae }}の頭上に疑問符が飛んでいる。アオキは平常と変わらない顔だ。アオキに限ってそんな嘘を吐くことがない、吐くはずがない。

「よ、喜んで……」

 それではよろしくお願いしますとアオキが深々と頭を下げる。{{ namae }}も慌てて頭を下げる。頭を下げながら、もう少しウィットに富んだ返事が出来なかった自分が少しだけ悔しかった。

2023/01/08
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非公式二次創作夢サイト。公式及び関係者様とは一切関係ありません。様々な友情、恋愛の形が許せる方推奨です。
R-15ですので中学生を含む十五歳以下の方は閲覧をお控えください。前触れも無く悲恋、暴力的表現、流血、性描写、倫理的問題言動、捏造、オリジナル設定、キャラ崩壊等を含みます。ネタバレに関してはほぼ配慮してません。夢主≠主人公です。
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