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Novel pkmn 今日はえいえんの最初の日(シンオウでウォロと再会/完結)
1 / 2 / 3 / 4 tt5 !+さよならの練習を(男主とオフェンスが過ごす真夏の話/現パロ/完結)
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さよならの練習を03
オフェンス「……何、してるの」
{{ namae }}の声帯が紡いだのは何処か間の抜けた音だった。何って、と宙に浮いているウィリアムが丸い目をきょとんとさせる。{{ namae }}は心臓が脈打つのを感じた。じわり、じわりと心臓が指先にまで熱を運んでいく。
{{ namae }}の眼前にいるウィリアムは、確かに浮いていた。数センチなんてものではない。ウィリアムはしゃがみ込むようにして{{ namae }}の顔を見ているが、その頭のてっぺんは天井とくっついているように見える。風船のようだ。あのヘリウムガスをぱんぱんに詰め込ませた風船を思い出させた。部屋の中に横たわる風船たちはクーラーの風に吹かれ、僅かに移動している。
「ああ、何でか解らねぇけど、こうなってて」
いたずらっ子のようにウィリアムは笑う。そうなんだと{{ namae }}は何も考えずに音を出す。
ウィリアムがそう言うならそうなんだろうと納得しながら身体を起こす。そこには自然世界に成り立つ法則や道理などは存在しない。
頭を打ち付けたせいで世界は大げさに揺れる。喉に何かが引っかかり激しく咳き込んだ。だいじょうぶかぁ、とからから笑うウィリアムの声がする。どこか間延びしているように聞こえた。{{ namae }}は泣きたいような気持ちになった。胸を占めていた寂しさが一気に歓びに変わり果てたのだ。大丈夫と咳き込みながらも返事をする。足元にあった、不格好な結び目を作りつつもちぎれて一本になったビニル紐は捨てることにした。
{{ namae }}は顔を上げてウィリアムを見上げる。ウィリアムはやはり物理的な法則を無視をして風船のようにぷかぷかと浮いている。しかし{{ namae }}のろくにはたらかない頭は何も感じなかった。何だかおかしいなと何処かで思いつつも、そう言うものなんだろうと納得している。それよりも何かウィリアムに伝えなければいけないという使命感に似た物を強く感じている。しかし何を伝えようとしていたのか思い出せない。内容が何も思い出せない。暑さのせいか、それとも頭をぶつけたからだろうか。焦燥感が顔を出した。じり、じりと日光に焼かれるアスファルトを思い出す。はたまた、と考えかけて即座に脳味噌がはたらくことをやめた。何だって良いじゃないか。だって目の前にウィリアムがいるのだから。考えることを放棄する。その通りだと、{{ namae }}はうっそりと目を細めさせる。全く持ってその通りだ。何かを伝えたいと思っていたのは確かだが、何も思い出せないのならば仕方がない。
瞬間にセミの声が返ってきた。大合唱をしている。喧しく鳴き声を上げて雌を引き寄せようとしている。
きっと祝っているんだ、ウィリアムが自身の部屋にいる事実に。
身勝手なことを考えて言葉にした。それは{{ namae }}を愉快な気持ちにさせる。滑稽さは{{ namae }}の唇を弧に描かせる。
「そのままだと、飛んでいきそうだね」
「ん? ああ、俺?」
確かになあと他人事のような言葉を出すウィリアムにほんの少しだけ苛立ちを覚える。ウィリアムの話を聞く限り、どうやらあまり身動き取れないらしい。不自由だなあとぼんやりと呟きながらも{{ namae }}は脳味噌の奥はどうしたものかと深刻そうに呟く。
飛んでいかないようにしないと、と{{ namae }}は独り言つ。立ち上がり、ふらつきながらも押し入れへと歩いていく。転がっている風船を蹴飛ばせば大した抵抗もせずにどこかへと弾みながら移動していた。押し入れを開いて慣れ親しんだクッキーの缶を取り出す。ウィリアムがじっと見つめる中、{{ namae }}はそれを開く。その中にはラッピングに使われていたリボンやら紐やらが入っている。何となく捨てにくくて、大して使う訳でもないのに置いていた。クッキーかと思った、とどこか残念そうにウィリアムが言う。{{ namae }}は僕も昔はそうだったと歯を見せて笑う。
{{ namae }}の手は、雑多に詰められた紐たちの中から林檎のような鮮やかな赤色をしたアクリル製の丸紐を取り出した。足首を掴んで引っ張れば安易に下がってくれた。重さも熱さも感じない。ウィリアムの左足首に赤い紐を巻き付けていく。輪から足首が抜けてしまわないように、結び目がほどけてしまわないように慎重に括りつけていく。ウィリアムはそんな{{ namae }}の手を止めさせることもせずに、じっとしている。それが余計に許されていると錯覚してしまう。
しばらくして{{ namae }}はウィリアムから手を離す。ウィリアムの足首からだらりと赤い紐が垂れさがっている。電気の紐のようで、それにしてはどこか間抜けで歪で不釣り合いだ。引っ張っても明るさが損なわれる訳でもないし、何か音が出る訳でもないが、何となくという漠然とした理由で引っ張りたくなる。
「何で?」
ウィリアムが苦笑を隠さずに尋ねる。
{{ namae }}はにたにたと笑いながら、飛んでいったら困るから、と良く分からない言葉を呟いた。人間が飛んでいく訳ないじゃないか。そう脳裏で呟いた。けれど現に今ウィリアムは宙に浮いている。出さなければ良いんだ。幼い頃、自らの不注意で手元から離れて永遠に返って来なくなった、ヘリウムガスで膨らんだ風船を思い出す。
ウィリアムがおかしそうに笑いながら何かを言ったようだった。だが{{ namae }}の鼓膜を震わすより先に蝉の声が殺してしまった。{{ namae }}は聞き返すこともせずに、にこにこと笑うだけだ。
「そんなことよりも、お腹とか空かない?」
大して腹も減っていないくせにそんなことを問うた。ウィリアムは確かに、という。{{ namae }}は何か一緒に食べようかと思ったが、冷蔵庫に何もないことを思い出した。夏になると暑さ故に出かけることが億劫になる。何かの用事で出たついでにスーパーに行くことをしていたが、それも段々と無くなっていた。それでももしかしてを期待して冷蔵庫を開く。ウィリアムが椅子に触れながら移動して一緒に冷蔵庫の中身を覗いた。思っていた通り、冷蔵庫にはおかずになりそうなものはない。漬物を入れられたタッパが二つほど。冷凍庫を開くと氷が幾つか入っていた。流石にそれでは腹は膨れない。
「……なあ、アンタは普段何を食べてるんだ」
「何か買って来るよ」
ウィリアムが呆れたように吐いた質問には答えなかった。{{ namae }}はウィリアムの怪訝そうな顔を見ずに告げる。財布を尻ポケットに入れた。行ってきますといって、カギを開けて扉を開く。吐きたくなる程の熱気に顔を顰めさせた。いってらっしゃい、というお約束の言葉を背中に{{ namae }}は外へと出る。あつい、と呟いた。熱されたアスファルトからむっとする程熱い空気が{{ namae }}の皮膚に触れる。毛穴と言う毛穴から汗が溢れ、{{ namae }}の皮膚を滑り落ちる。{{ namae }}は、日傘でもするべきだったかなと思いながらスーパーへと歩いていった。
馴染んだ店内は良く冷えていた。汗が一気に引いていく。スポーツドリンクでも買おうかなと店内を歩いていく。買い物かごにお弁当を複数個、惣菜をいくつか、それから冷凍食品を入れていく。
「あれ、」
聞きなれた声に顔を上げるとイライがいる。さっきぶりだね、と話すイライにそうだねと返す。イライが持っている買い物かごには惣菜パンが二、三個ほど入っている。明日の朝ごはんにでもするのだろうか。
「{{ namae }}にしては、随分たくさん食べるんだね?」
イライの言葉に、{{ namae }}は曖昧にまあねと返す。ウィリアムがいるからとは言わなかった。どうせ余るし、余れば明日に回せば良い。不要なことは伝えないことに限る。
{{ namae }}が黙っているとイライはちょっとした世間話をし始める。イソップが最近元気がないとかノートンがナワーブやマーサと三人で何処かに行ったとか。{{ namae }}にとって、どうでも良いことだ。あってもなくても同じ情報だ。そんなことを聞くよりも、ただただウィリアムの側にいたい。
「ごめん、帰るね」
鍵を掛け忘れたかもしれないと思い付きの言葉を{{ namae }}は申し訳なさそうに言う。イライは何か言いたそうな様子をしていたが、そうか、気を付けてと特に引き留めるわけでもなく別れた。
「おかえり、良いのあったか?」
やはりウィリアムは宙を浮いている。健康そうな足に括りつけた紐はイスに縛られていた。{{ namae }}は満足そうに笑いながらちょっとだけねと当たり障りのない返事をする。醜い{{ namae }}の独占欲は紐の形をしていた。
2020/06/27
2022/06/07
「……何、してるの」
{{ namae }}の声帯が紡いだのは何処か間の抜けた音だった。何って、と宙に浮いているウィリアムが丸い目をきょとんとさせる。{{ namae }}は心臓が脈打つのを感じた。じわり、じわりと心臓が指先にまで熱を運んでいく。
{{ namae }}の眼前にいるウィリアムは、確かに浮いていた。数センチなんてものではない。ウィリアムはしゃがみ込むようにして{{ namae }}の顔を見ているが、その頭のてっぺんは天井とくっついているように見える。風船のようだ。あのヘリウムガスをぱんぱんに詰め込ませた風船を思い出させた。部屋の中に横たわる風船たちはクーラーの風に吹かれ、僅かに移動している。
「ああ、何でか解らねぇけど、こうなってて」
いたずらっ子のようにウィリアムは笑う。そうなんだと{{ namae }}は何も考えずに音を出す。
ウィリアムがそう言うならそうなんだろうと納得しながら身体を起こす。そこには自然世界に成り立つ法則や道理などは存在しない。
頭を打ち付けたせいで世界は大げさに揺れる。喉に何かが引っかかり激しく咳き込んだ。だいじょうぶかぁ、とからから笑うウィリアムの声がする。どこか間延びしているように聞こえた。{{ namae }}は泣きたいような気持ちになった。胸を占めていた寂しさが一気に歓びに変わり果てたのだ。大丈夫と咳き込みながらも返事をする。足元にあった、不格好な結び目を作りつつもちぎれて一本になったビニル紐は捨てることにした。
{{ namae }}は顔を上げてウィリアムを見上げる。ウィリアムはやはり物理的な法則を無視をして風船のようにぷかぷかと浮いている。しかし{{ namae }}のろくにはたらかない頭は何も感じなかった。何だかおかしいなと何処かで思いつつも、そう言うものなんだろうと納得している。それよりも何かウィリアムに伝えなければいけないという使命感に似た物を強く感じている。しかし何を伝えようとしていたのか思い出せない。内容が何も思い出せない。暑さのせいか、それとも頭をぶつけたからだろうか。焦燥感が顔を出した。じり、じりと日光に焼かれるアスファルトを思い出す。はたまた、と考えかけて即座に脳味噌がはたらくことをやめた。何だって良いじゃないか。だって目の前にウィリアムがいるのだから。考えることを放棄する。その通りだと、{{ namae }}はうっそりと目を細めさせる。全く持ってその通りだ。何かを伝えたいと思っていたのは確かだが、何も思い出せないのならば仕方がない。
瞬間にセミの声が返ってきた。大合唱をしている。喧しく鳴き声を上げて雌を引き寄せようとしている。
きっと祝っているんだ、ウィリアムが自身の部屋にいる事実に。
身勝手なことを考えて言葉にした。それは{{ namae }}を愉快な気持ちにさせる。滑稽さは{{ namae }}の唇を弧に描かせる。
「そのままだと、飛んでいきそうだね」
「ん? ああ、俺?」
確かになあと他人事のような言葉を出すウィリアムにほんの少しだけ苛立ちを覚える。ウィリアムの話を聞く限り、どうやらあまり身動き取れないらしい。不自由だなあとぼんやりと呟きながらも{{ namae }}は脳味噌の奥はどうしたものかと深刻そうに呟く。
飛んでいかないようにしないと、と{{ namae }}は独り言つ。立ち上がり、ふらつきながらも押し入れへと歩いていく。転がっている風船を蹴飛ばせば大した抵抗もせずにどこかへと弾みながら移動していた。押し入れを開いて慣れ親しんだクッキーの缶を取り出す。ウィリアムがじっと見つめる中、{{ namae }}はそれを開く。その中にはラッピングに使われていたリボンやら紐やらが入っている。何となく捨てにくくて、大して使う訳でもないのに置いていた。クッキーかと思った、とどこか残念そうにウィリアムが言う。{{ namae }}は僕も昔はそうだったと歯を見せて笑う。
{{ namae }}の手は、雑多に詰められた紐たちの中から林檎のような鮮やかな赤色をしたアクリル製の丸紐を取り出した。足首を掴んで引っ張れば安易に下がってくれた。重さも熱さも感じない。ウィリアムの左足首に赤い紐を巻き付けていく。輪から足首が抜けてしまわないように、結び目がほどけてしまわないように慎重に括りつけていく。ウィリアムはそんな{{ namae }}の手を止めさせることもせずに、じっとしている。それが余計に許されていると錯覚してしまう。
しばらくして{{ namae }}はウィリアムから手を離す。ウィリアムの足首からだらりと赤い紐が垂れさがっている。電気の紐のようで、それにしてはどこか間抜けで歪で不釣り合いだ。引っ張っても明るさが損なわれる訳でもないし、何か音が出る訳でもないが、何となくという漠然とした理由で引っ張りたくなる。
「何で?」
ウィリアムが苦笑を隠さずに尋ねる。
{{ namae }}はにたにたと笑いながら、飛んでいったら困るから、と良く分からない言葉を呟いた。人間が飛んでいく訳ないじゃないか。そう脳裏で呟いた。けれど現に今ウィリアムは宙に浮いている。出さなければ良いんだ。幼い頃、自らの不注意で手元から離れて永遠に返って来なくなった、ヘリウムガスで膨らんだ風船を思い出す。
ウィリアムがおかしそうに笑いながら何かを言ったようだった。だが{{ namae }}の鼓膜を震わすより先に蝉の声が殺してしまった。{{ namae }}は聞き返すこともせずに、にこにこと笑うだけだ。
「そんなことよりも、お腹とか空かない?」
大して腹も減っていないくせにそんなことを問うた。ウィリアムは確かに、という。{{ namae }}は何か一緒に食べようかと思ったが、冷蔵庫に何もないことを思い出した。夏になると暑さ故に出かけることが億劫になる。何かの用事で出たついでにスーパーに行くことをしていたが、それも段々と無くなっていた。それでももしかしてを期待して冷蔵庫を開く。ウィリアムが椅子に触れながら移動して一緒に冷蔵庫の中身を覗いた。思っていた通り、冷蔵庫にはおかずになりそうなものはない。漬物を入れられたタッパが二つほど。冷凍庫を開くと氷が幾つか入っていた。流石にそれでは腹は膨れない。
「……なあ、アンタは普段何を食べてるんだ」
「何か買って来るよ」
ウィリアムが呆れたように吐いた質問には答えなかった。{{ namae }}はウィリアムの怪訝そうな顔を見ずに告げる。財布を尻ポケットに入れた。行ってきますといって、カギを開けて扉を開く。吐きたくなる程の熱気に顔を顰めさせた。いってらっしゃい、というお約束の言葉を背中に{{ namae }}は外へと出る。あつい、と呟いた。熱されたアスファルトからむっとする程熱い空気が{{ namae }}の皮膚に触れる。毛穴と言う毛穴から汗が溢れ、{{ namae }}の皮膚を滑り落ちる。{{ namae }}は、日傘でもするべきだったかなと思いながらスーパーへと歩いていった。
馴染んだ店内は良く冷えていた。汗が一気に引いていく。スポーツドリンクでも買おうかなと店内を歩いていく。買い物かごにお弁当を複数個、惣菜をいくつか、それから冷凍食品を入れていく。
「あれ、」
聞きなれた声に顔を上げるとイライがいる。さっきぶりだね、と話すイライにそうだねと返す。イライが持っている買い物かごには惣菜パンが二、三個ほど入っている。明日の朝ごはんにでもするのだろうか。
「{{ namae }}にしては、随分たくさん食べるんだね?」
イライの言葉に、{{ namae }}は曖昧にまあねと返す。ウィリアムがいるからとは言わなかった。どうせ余るし、余れば明日に回せば良い。不要なことは伝えないことに限る。
{{ namae }}が黙っているとイライはちょっとした世間話をし始める。イソップが最近元気がないとかノートンがナワーブやマーサと三人で何処かに行ったとか。{{ namae }}にとって、どうでも良いことだ。あってもなくても同じ情報だ。そんなことを聞くよりも、ただただウィリアムの側にいたい。
「ごめん、帰るね」
鍵を掛け忘れたかもしれないと思い付きの言葉を{{ namae }}は申し訳なさそうに言う。イライは何か言いたそうな様子をしていたが、そうか、気を付けてと特に引き留めるわけでもなく別れた。
「おかえり、良いのあったか?」
やはりウィリアムは宙を浮いている。健康そうな足に括りつけた紐はイスに縛られていた。{{ namae }}は満足そうに笑いながらちょっとだけねと当たり障りのない返事をする。醜い{{ namae }}の独占欲は紐の形をしていた。
2020/06/27
2022/06/07
{{ namae }}の声帯が紡いだのは何処か間の抜けた音だった。何って、と宙に浮いているウィリアムが丸い目をきょとんとさせる。{{ namae }}は心臓が脈打つのを感じた。じわり、じわりと心臓が指先にまで熱を運んでいく。
{{ namae }}の眼前にいるウィリアムは、確かに浮いていた。数センチなんてものではない。ウィリアムはしゃがみ込むようにして{{ namae }}の顔を見ているが、その頭のてっぺんは天井とくっついているように見える。風船のようだ。あのヘリウムガスをぱんぱんに詰め込ませた風船を思い出させた。部屋の中に横たわる風船たちはクーラーの風に吹かれ、僅かに移動している。
「ああ、何でか解らねぇけど、こうなってて」
いたずらっ子のようにウィリアムは笑う。そうなんだと{{ namae }}は何も考えずに音を出す。
ウィリアムがそう言うならそうなんだろうと納得しながら身体を起こす。そこには自然世界に成り立つ法則や道理などは存在しない。
頭を打ち付けたせいで世界は大げさに揺れる。喉に何かが引っかかり激しく咳き込んだ。だいじょうぶかぁ、とからから笑うウィリアムの声がする。どこか間延びしているように聞こえた。{{ namae }}は泣きたいような気持ちになった。胸を占めていた寂しさが一気に歓びに変わり果てたのだ。大丈夫と咳き込みながらも返事をする。足元にあった、不格好な結び目を作りつつもちぎれて一本になったビニル紐は捨てることにした。
{{ namae }}は顔を上げてウィリアムを見上げる。ウィリアムはやはり物理的な法則を無視をして風船のようにぷかぷかと浮いている。しかし{{ namae }}のろくにはたらかない頭は何も感じなかった。何だかおかしいなと何処かで思いつつも、そう言うものなんだろうと納得している。それよりも何かウィリアムに伝えなければいけないという使命感に似た物を強く感じている。しかし何を伝えようとしていたのか思い出せない。内容が何も思い出せない。暑さのせいか、それとも頭をぶつけたからだろうか。焦燥感が顔を出した。じり、じりと日光に焼かれるアスファルトを思い出す。はたまた、と考えかけて即座に脳味噌がはたらくことをやめた。何だって良いじゃないか。だって目の前にウィリアムがいるのだから。考えることを放棄する。その通りだと、{{ namae }}はうっそりと目を細めさせる。全く持ってその通りだ。何かを伝えたいと思っていたのは確かだが、何も思い出せないのならば仕方がない。
瞬間にセミの声が返ってきた。大合唱をしている。喧しく鳴き声を上げて雌を引き寄せようとしている。
きっと祝っているんだ、ウィリアムが自身の部屋にいる事実に。
身勝手なことを考えて言葉にした。それは{{ namae }}を愉快な気持ちにさせる。滑稽さは{{ namae }}の唇を弧に描かせる。
「そのままだと、飛んでいきそうだね」
「ん? ああ、俺?」
確かになあと他人事のような言葉を出すウィリアムにほんの少しだけ苛立ちを覚える。ウィリアムの話を聞く限り、どうやらあまり身動き取れないらしい。不自由だなあとぼんやりと呟きながらも{{ namae }}は脳味噌の奥はどうしたものかと深刻そうに呟く。
飛んでいかないようにしないと、と{{ namae }}は独り言つ。立ち上がり、ふらつきながらも押し入れへと歩いていく。転がっている風船を蹴飛ばせば大した抵抗もせずにどこかへと弾みながら移動していた。押し入れを開いて慣れ親しんだクッキーの缶を取り出す。ウィリアムがじっと見つめる中、{{ namae }}はそれを開く。その中にはラッピングに使われていたリボンやら紐やらが入っている。何となく捨てにくくて、大して使う訳でもないのに置いていた。クッキーかと思った、とどこか残念そうにウィリアムが言う。{{ namae }}は僕も昔はそうだったと歯を見せて笑う。
{{ namae }}の手は、雑多に詰められた紐たちの中から林檎のような鮮やかな赤色をしたアクリル製の丸紐を取り出した。足首を掴んで引っ張れば安易に下がってくれた。重さも熱さも感じない。ウィリアムの左足首に赤い紐を巻き付けていく。輪から足首が抜けてしまわないように、結び目がほどけてしまわないように慎重に括りつけていく。ウィリアムはそんな{{ namae }}の手を止めさせることもせずに、じっとしている。それが余計に許されていると錯覚してしまう。
しばらくして{{ namae }}はウィリアムから手を離す。ウィリアムの足首からだらりと赤い紐が垂れさがっている。電気の紐のようで、それにしてはどこか間抜けで歪で不釣り合いだ。引っ張っても明るさが損なわれる訳でもないし、何か音が出る訳でもないが、何となくという漠然とした理由で引っ張りたくなる。
「何で?」
ウィリアムが苦笑を隠さずに尋ねる。
{{ namae }}はにたにたと笑いながら、飛んでいったら困るから、と良く分からない言葉を呟いた。人間が飛んでいく訳ないじゃないか。そう脳裏で呟いた。けれど現に今ウィリアムは宙に浮いている。出さなければ良いんだ。幼い頃、自らの不注意で手元から離れて永遠に返って来なくなった、ヘリウムガスで膨らんだ風船を思い出す。
ウィリアムがおかしそうに笑いながら何かを言ったようだった。だが{{ namae }}の鼓膜を震わすより先に蝉の声が殺してしまった。{{ namae }}は聞き返すこともせずに、にこにこと笑うだけだ。
「そんなことよりも、お腹とか空かない?」
大して腹も減っていないくせにそんなことを問うた。ウィリアムは確かに、という。{{ namae }}は何か一緒に食べようかと思ったが、冷蔵庫に何もないことを思い出した。夏になると暑さ故に出かけることが億劫になる。何かの用事で出たついでにスーパーに行くことをしていたが、それも段々と無くなっていた。それでももしかしてを期待して冷蔵庫を開く。ウィリアムが椅子に触れながら移動して一緒に冷蔵庫の中身を覗いた。思っていた通り、冷蔵庫にはおかずになりそうなものはない。漬物を入れられたタッパが二つほど。冷凍庫を開くと氷が幾つか入っていた。流石にそれでは腹は膨れない。
「……なあ、アンタは普段何を食べてるんだ」
「何か買って来るよ」
ウィリアムが呆れたように吐いた質問には答えなかった。{{ namae }}はウィリアムの怪訝そうな顔を見ずに告げる。財布を尻ポケットに入れた。行ってきますといって、カギを開けて扉を開く。吐きたくなる程の熱気に顔を顰めさせた。いってらっしゃい、というお約束の言葉を背中に{{ namae }}は外へと出る。あつい、と呟いた。熱されたアスファルトからむっとする程熱い空気が{{ namae }}の皮膚に触れる。毛穴と言う毛穴から汗が溢れ、{{ namae }}の皮膚を滑り落ちる。{{ namae }}は、日傘でもするべきだったかなと思いながらスーパーへと歩いていった。
馴染んだ店内は良く冷えていた。汗が一気に引いていく。スポーツドリンクでも買おうかなと店内を歩いていく。買い物かごにお弁当を複数個、惣菜をいくつか、それから冷凍食品を入れていく。
「あれ、」
聞きなれた声に顔を上げるとイライがいる。さっきぶりだね、と話すイライにそうだねと返す。イライが持っている買い物かごには惣菜パンが二、三個ほど入っている。明日の朝ごはんにでもするのだろうか。
「{{ namae }}にしては、随分たくさん食べるんだね?」
イライの言葉に、{{ namae }}は曖昧にまあねと返す。ウィリアムがいるからとは言わなかった。どうせ余るし、余れば明日に回せば良い。不要なことは伝えないことに限る。
{{ namae }}が黙っているとイライはちょっとした世間話をし始める。イソップが最近元気がないとかノートンがナワーブやマーサと三人で何処かに行ったとか。{{ namae }}にとって、どうでも良いことだ。あってもなくても同じ情報だ。そんなことを聞くよりも、ただただウィリアムの側にいたい。
「ごめん、帰るね」
鍵を掛け忘れたかもしれないと思い付きの言葉を{{ namae }}は申し訳なさそうに言う。イライは何か言いたそうな様子をしていたが、そうか、気を付けてと特に引き留めるわけでもなく別れた。
「おかえり、良いのあったか?」
やはりウィリアムは宙を浮いている。健康そうな足に括りつけた紐はイスに縛られていた。{{ namae }}は満足そうに笑いながらちょっとだけねと当たり障りのない返事をする。醜い{{ namae }}の独占欲は紐の形をしていた。
2020/06/27
2022/06/07
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非公式二次創作夢サイト。公式及び関係者様とは一切関係ありません。様々な友情、恋愛の形が許せる方推奨です。
R-15ですので中学生を含む十五歳以下の方は閲覧をお控えください。前触れも無く悲恋、暴力的表現、流血、性描写、倫理的問題言動、捏造、オリジナル設定、キャラ崩壊等を含みます。ネタバレに関してはほぼ配慮してません。夢主≠主人公です。
R-18作品についてはワンクッションがあります。高校生を含む十八歳未満の方は閲覧をお控えください。
当サイトのコンテンツの無断転載、二次配布、オンラインブックマークなどはお控えください。同人サイト様のみリンクフリーです。
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URL:https://www.fya.jp/~ticktack/
master:ニーナ(別名義でCP活動もしていますnote)
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